宮崎県の都農(つの)町まで来ています。
ひと月ほど前に、熊本の宇城で青の1号をキャンピングカーで追いかけてきてくれた中園さんと、
キャンピングカーにトイレは必要か
という話題になりました。
これはキャンピングカー関係ではよく出る話なのですが、中園さんの見解は
必要なし
でした。今は日本中ほとんどトイレがあるわけで敢えてトイレはなくてもいい、というお考えです。
僕もほぼ同じですが、
でも無くしたくない
というのが僕の考えです。
だって安心なんですもの。
できれば人生いつもトイレを背負って生きていたいくらいです。
仕事がらみで10年ちょい前にバンコクに行ったときの話です。
帰国日前日の午後に、ショッピングタイムということで自由行動ということになり、街の中心部のデュシタニというホテル近くのサラディーン駅からBTS(モノレール)に乗って、終点のナショナルスタジアム駅前にある東急デパートに向かおうとしていました。
ところが、前日昼に食べた刺身のせいだと思うのですが、おなかの具合がよくなかったのです。
一応出発前に部屋のトイレで用を済ませ、万全の体制をとってホテルを出たのですが
・・・
既にその時、世にも恐ろしい物語の幕が切って落とされていたのです。
(注)えー、食事時に読まない方がいいです。
サラディーン駅に到着し、自動販売機でBTSのキップを買おうとしたのですが、
慣れていなかったのでいくらのキップを買ったらいいのかわかりません。
そこで、
(まあ、いいか。一番安いのを買って降りるときに清算すればいいだろう)
という日本的考えで、販売機に10バーツコイン2枚を入れて、初乗り15バーツ(45円)のキップを購入したのですが、
・・・
この何気ない日本的な行動が後に大きな禍となって僕に降りかかってくることになるのです。
そしてBTSに乗り、東急のあるナショナルスタジアム駅に向かいました。
わずか3駅、時間にして数分のことです。
ところが
・・・
BTS車内は冷房がとても効いていました。
僕のスタイルはTシャツに短パン、短ソックス、スニーカー。しかもパンツは履いていません。
何故だ、といわれるかもしれませんが暑い国ではこのスタイルがいいのです。
しかし、結果的にこのことが傷口を広げることになったのです。
この過度な冷房により、暑さには強いけど寒さには無防備の僕の体は急速に冷え
・・・
まず軽い第一の波が十二指腸左奥あたりから下腹部にかけて押し寄せたのです。
(ちょっとヤバイな)
と危険を察知した僕は、目的駅の一つ前のサーヤム駅で降りました。
長年の経験上、早目の処置が必要であることをよく理解していたのです。
「もうひと駅だから」
が取り返しのつかないことにつながるのです。
とは言っても、過去ギリの状態までは行ったことはあるものの、取り返しのつかないところまで行ったことはありませんでした。
サーヤムは若者の街です。日本で言えば原宿といったところでしょうか。
BTSは高架線なのでホームからは目の下に賑わう街並みが見えます。
何かの野外コンサートも行われていました。
土曜日だったこともあり大勢の若者とともにホームに降り立った僕はすぐにトイレを探しました。
どこかに男と女を青と赤で描いたトイレの「案内版」というものがあるはずです。
視界にそのようなものはありませんでした。
さて、
と僕は考えました。
あせりは、禁物です。
今必要なのは冷静な行動です。
時間があまりないことも自覚していました。
いつ次の波が襲ってくるかわかりません。
目の前に改札に降りる階段がありました。
トイレがその方向にある可能性が高かったのですが、「ホームの端」という線も考えられました。
僕の中に一瞬の迷いが生じました。
どちらに向かうべきか。
その時急に第二の波が押し寄せてきたのです。
どうしてこういうのはなんの前触れもなく襲ってくるのでしょうか。
それをなんとか凌ぎ、何故か「ホームの端」説に僕の意志は傾き、移動し始めたのです。
僕の乗ってきた電車が過ぎ去って数分が経ち、またホーム上はまた混雑し始めていました。
そして、10歩ほど歩いた時です。
今までとは比較にならないほどの強烈な第三波が襲ってきたのです。
(ヤバイ!この状況ではいくらなんでもヤバすぎる)
必死に耐える僕
・・・
な、なんとか
・・・
この難局を耐え切ったのですが
・・・
ピークが遠ざかったと思った時です。
若干の気の緩み間が出たのでしょう。「ガス」をちょっと抜けば楽になるかも知れないと思い、腹にほんの少しだけ力を入れたのです。
それが命取りになりました
・・・
恐れていたことが現実になったのです。
ぴゅる
という感じで
・・・
出てしまったのです。
ただし、幸いにも絶望的な量ではありませんでした。
しかし安心できる量でもありません。
具体的に言うと、昔の検便の時に
「小指の先ほど」
という表現がありましたが、その5~6倍くらいの量ではないでしょうか。
けっこう深刻な量です。
ちょうど重力と粘着力のバランスが拮抗し、谷間にかろうじて留まっている状態だったのです。
このままだと、やがて重力が粘着力を上回り、パンツを履いていない僕にとってはとても危険な状態になるということも十分考えられました。
さらに大きな波が襲ってくればもうおしまいです。
もう一度確認させていただきますが、ここはバンコクの高架線のホーム上です。
電車は去りましたが周りにはかなりのヒトがいる状況です。
(ヤバイな)
と思った僕は周りを気にしながらも短パンの後ろに右手を突っ込み、谷間にその手を入れ、そしてゆっくりと出しました。
予想通りその手にべっとりと不純物が付いていました。
僕の携行品は札幌で秋冬に開催されている「ゴールデンマーケット」というイベントでもらったビニールにヒモがついた袋の中に入れていました。
なにか拭くものは入ってないかと思い、左手だけを使い中を覗いてみました。
眼鏡ケースと「地球の歩き方(12)やすらかなる国タイ」が見えました。
悲しいことにそれしか入っていませんでした。
「やすらかなる」状況でなかった僕は、その「地球の歩き方」のページを破って拭こうとも思ったのですが、その本は全体がツルツルした紙でできていたので不向きだと考え諦めました。
(どうしたらいいのだろうか)
と、考えたその時です。
突然のスコールが降ってきたのです。
もちろんホームにいたので濡れることはありませんが、眼下のサヤームの街は瞬く間に激しいスコールに襲われていました。
(これだ!)
閃きました。
このまま外に出てこのスコールでこの汚れた右手を洗い流せばいいのです。
何というタイミングなのでしょうか。
まさしく天からの贈り物でした。
僕は15メートル先にある階段に向かってジワジワと歩き出しました。
ジワジワとです。
サッサとは歩けません。
まだ谷間にかなりの量が残っていたからです。
階段を内股で一歩一歩確かめるように下っていきました。
降り切ったところに改札がありました。
改札は無人の機械式です。
BTSのキップはクレジットカードと同じ大きさで、何回も使い回しができるようになっています。
キップは短パンの右側のポケットに入っていました。
右手が使えないので、体を捻りながらそのキップを左手でつかみ、あとはそれを機械の中に入れて外に出るだけです。
外はスコールがまだ続いて暗くなっていましたが、そこには明るい未来が待っていました。
そしてその大海原への扉を開くがごとく、左手でキップを機械に差し込んだ
・・・
その瞬間です。
な、なんということでしょうか。
ピンポン!
という音と共に、機械の横についているランプが
ピカピカピカピカ
とけたたましく点滅したのです。
そして、呆然と立ち尽くす僕に
・・・
タイの方々の視線が一斉に集まったのです。
<つづく>
東の空から新しい日が昇ります。
街のスーパーで買い物を済ませ戻ってくると、おじいさんが話しかけてきました。
鶴瓶の家族に乾杯見ました。まさかこんなところでお会いできるとは感激です。
あまりに感激してくれるので、青の1号にお招きしました。
えーと・・・怒ってるわけじゃないです。
御歳79歳になるそうですが、今の車が車検なので車中泊をできるるような車に替えて全国旅したいのだそうです。
早く始めなければできなくなってしまうんで
と言っていましたが
・・・
生きる勇気をあげてしまいました。
渓谷沿いの道を山の中に向かって走り、
温泉県に入ります。
そして、道の駅・原尻の滝に到着です。
こんなにのんびりとした道の駅は初めてです。
そして、小さな春を見つけました。
美しくない話から・・・最後はなんて美しい話で終わったんでしょうか。
<追記>
そして、再度美しくない
・・・
青の1号のトイレです。
物置になってます。
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View Comments (5)
危機的な状況からいかにして難を逃れたのか早く知りたいです
私もはるか昔小学生の頃、帰り道にあの衝撃波に襲われ走ってもダメゆっくり歩いても間に合わないと言う状況陥りました。
何度目かのウェーブを乗り切り、やっとの思いで玄関に辿り着いてドアを開けようとした時、まさかの全員留守で鍵が閉まっていました。
家に辿り着けた安心感と鍵が閉まっていた落胆の思いが同時に私の心を駆け巡り、恥ずかしながらその場で開放してしまいました
小学校六年生…屈辱の排便と相成りました。
今でも忘れません…あの清々しさ
ネタ切れですか?
にしては随分用意周到な加筆ですね。
こんばんわ。原尻の滝、素敵な駅ですよね。私も何度かお世話になりました。若干、山手に入られたようですね。青の経路が予測不能となってきました。前からそうですが。
このまま豊の国そして伊予へでしょうか。
混浴レポート楽しみにしております。
ご安全に。
何度読んでも笑えますね(笑)
サスペンス男さんとらくださんと大笑いしながら読んだのですが、帰宅した後にまた読み直して夜中に一人で笑ってました。
でも切符で指を拭ったという話も聞いたことがあるような気がしてますが、それはむーちんさんではないですか?